「りーん、りりーん」
裏のおばあちゃんの家で今日も風鈴が鳴っている。
夏は涼しげな音色が心地よかったが、今はもう秋である。
しかも冬の気配を感じる晩秋だ。夏の暑さはとうに記憶から遠ざかっている。
こんな季節に風鈴の音を聞くと、より一層寒さが増す気がする。
毎年夏の始まりに掛けられ、几帳面に8月の最後の日に仕舞われていた風鈴。
そういえば8月に旦那さんが亡くなってからというもの、
おばあちゃん、ひどく落ち込んでずっと元気がなかったようだった。
体調が悪くて風鈴を仕舞えないのかな?なんて思っていたら、
スーパーで偶然、おばあちゃんと出会った。
風鈴、片付けないんですか?と何気なく聞いてみた。
「あら、ごめんなさい。うるさかったかしら」
と、おばあちゃんは話し始めた。
あの風鈴は夏が始まるとご主人が準備し、8月の最後の日に丁寧に仕舞っていたそうだ。
でも、ご主人は今年の夏の終わりを待たずに亡くなってしまった。
「まだ受け入れられなくてねぇ。おじいさんがそのうちフラッと片付けに来るんじゃないかって気がして・・・」と悲しい笑顔で話してくれた。
そういう事だったのか。
風鈴の音色でご主人への想いを馳せるおばあちゃん。
素敵な夫婦だと思った。
あの風鈴、冬になっても春になってもずっと軒先で揺れ続けるのだろう。
次の夏もきっと・・・。
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